『移住で地方を元気にする』出版のご案内

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『移住で地方を元気にする』出版のご案内

4月1日、拙著『移住で地方を元気にする IT社長が木の会社を作った理由』(小学館刊・1760円=税込み)が発売されました。
少々長文ですが、この本に込めた思いを述べさせてください。

四国の右下と呼ばれる徳島県南東部の過疎の町、美波町を拠点に、セキュリティ・ソフトの開発販売企業、地方自治体支援のコンサルタント企業、かつて主力産業だったもののエネルギー革命によって消滅した照葉樹型林業を再興する会社を経営する吉田基晴さんの奮闘を2年間追いかけたビジネス・ノンフィクションです。

アウトドア月刊誌『BE-PAL』の連載をまとめたものと聞くと、ご存じなかった方の中には意外に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「だって、遊びの雑誌でしょ。なんで経営の話なんですか」と。

ジェイン・ジェイコブズという思索家が書いた『経済の本質』(香西泰・植木直子訳=日本経済新聞社)には、エコロジー(自然)とエコノミー(経済)は語源を同じくする双子のような言葉だとあります。
同書によれば、当初の生態学は自然が内包する経済のような相互システムを研究することから始まったそうです。
つまり人間が作り出した経済というシステムは、ある時期まで無謬(むびゅう)だと信じられていたのです。

ところが、生態学が自然のメカニズムを次々に解明していくのとは逆に、経済のほうは次第に不都合な真実=自己矛盾が浮き彫りになってきます。

にもかかわらず、自分たちの活動は生態系の枠外に置いてよいとする、まことに都合の良い理屈を信じ続け、人間は地球を破綻させかねないレベルまで経済を拡大させました。

その結果が、公害や温室効果ガス、海洋プラスチック、生物多様性の危機といった環境問題であり、貧富や格差の問題、人同士が反目し憎しみ合うおぞましい争いです。

現在の社会的課題の根本原因は、人間が自然の摂理、法則に無自覚なまま経済を追い求めてきたことにあるのだから、経済はいま一度自然のしくみに学び直すべきだとジェイコブズは論じています。

吉田基晴さんは、社会に対してよい行動を行なうことと経済活動は、じつは無理なく接合できると断言します。
根っからのアウトドア派である吉田さんの信念は「経済は持続可能性を実現できる」です。

昭和の経済は、自然環境を破壊し、人々を過重労働に駆り立てることで成り立っていました。今や誰もが高度経済成長の負の側面を知っています。
知ってしまったからにはパラダイムシフトするのが人間の英知、経済のありようではないか吉田さんは語ります。

令和の経済の役割は、自然を修復することでお金を回し、人々が幸福実感を持って働ける社会を都市と田舎の両方に創出すること。
そのために吉田さんが大事だと考えているのは、物事の道理です。
近江商人の家訓にみられる「相手よし」「自分よし」「世間よし」の、いわゆる三方よし経営の考えはまさに人の道理ですが、そこに自然の摂理と道理を加えれば社会はもっとよくすることができるはずだと語ります。
ウェルビーイングのためにはお金も必要ですが、お金だけでは真の幸福実感は持てないはずです。

人が笑顔を絶やさず暮らすうえで欠かせないものは、ほかにもたくさんあります。
私たちアウトドア派は、そのひとつが森や川や海、田畑に身を置く時間を持つこと、つまり自然の中で爽やかな汗をかいたりリフレッシュしたり、思索にふけることだと考えています。
誤解を恐れずに言えば、自然豊かな田舎=過疎地=には、今まで可視化されなかったさまざまな可能性があると思うのです。

私たちが、吉田さんという快男児の活動に注目した理由もそこにあります。

人口減少という社会現象に「抗う」ことは、おそらくできません。
しかし、移住者や関係人口という絆を保ち続けることができれば、コミュニティーは人口減に対して「しなやかに適応」できるはずです。
本書巻末に解説を寄せてくださっている明治大学・小田切徳美教授は、本書の内容を下記のように的確に説明しています。
<人口減少社会のあり方を論じる社会創造論として、あるいはスタートアップの神髄を論じたビジネス論として、また、自然と人間との新しい関係性(ネイチャーポジティブ)を語る環境論として、そして、吉田氏の波乱万丈の人生を語る行状記として、いずれの読み方もできる書である。>

どうぞよろしくお願いいたします。